第23回参議院議員通常選挙の結果、政権与党の自由民主党と公明党が衆議院議員選挙に引き続いて大勝しました。一方、民主党は結党以来最少議席に留まる歴史的大敗を喫しました。国民の多くが、4年前に大きな期待をかけて選んだリーダーに失望し、別のリーダーを選んだ結果です。それでは、私達は新しい巨大与党に何を期待するのでしょうか。
現在、日本は長期の人口減少局面に入り、特に1995年の8,700万人をピークに減少に転じた生産年齢人口は2051年に5,000万人を割り込むことが必至です。生産年齢人口の減少は、海外から原材料やエネルギーを輸入し、国内の生産・消費市場を基盤として付加価値を生み出し海外へ向けて輸出する従来の加工貿易モデルをくつがえすことになります。人口が減少するから従来の規模をそのまま小さくすれば済むという問題ではなく、国を発展させる新たなモデルを確立し、これまで誰も経験したことがない未来に対応していかなければなりません。
これまでの日本を支えてきたのは、高度経済成長期に確立された終身雇用、社会保障、系列等日本独自の社会制度であり、日本人の勤勉さや集団行動といった伝統的な精神と合致して相乗効果的に成功をおさめてきました。しかし一方で、これらの社会制度は組織内での内向きの体質を生み、コンセンサスを重視するあまり異質なものを排除してきたことも事実です。また、行政や政治家に何をしてもらえるのか要求するだけで、自分や身内さえ良ければいい、といった身勝手な日本人を増やす結果となってしまいました。日本を衰退させないために、私達は、従来の社会制度やサービスを消費するだけ、批判するだけとで終わってはなりません。
JCには以前、「所詮、二代目のボンボンの集まりで、いつも飲み歩いてばかりではないか」という批判が寄せられた時代がありました。JCは身内の親睦会でも、自己啓発の会でもありません。JCの存在価値は「次世代の子どもたちのために明るい豊かな社会をつくること」「そのために人の意識を改革していくこと」であり、全ての活動や運動は、この理念を物差しとして計られるべきです。「自己を拓く」ことは、自分が他に対してどのような貢献ができるかに常に意識を向けることから始まります。
大垣青年会議所では、法人制度改革により一般社団法人となりました。我々は、公益社団法人になれないから一般社団法人になったわけではありません。「明るい豊かな社会」の実現を理念とし、公益な事業を行う団体として存在しており、将来的には公益社団法人格を持たずに「社会の利益」「まちの利益」を語ることはできないと考えます。社会の負託と信頼に応え、明るい豊かな社会の実現のためには、公益社団法人格の取得を目指すことで自らの組織活動を見直し、自己満足から脱却した真の青年会議所となる必要があると考えます。
公益とは、「不特定かつ多数の者の利益」です。ただし、「不特定かつ多数」といっても具体的に数の多少が問題とされるわけではなく、受益の機会が一般に開かれているかどうかが本質的に重要です。数が多くても受益の機会が特定多数の者に限られれば、公益ではなく共益になってしまいます。例えば、青年会議所では、講師を招いても地域に住む一般の方に周知せず自分達だけで話を聞くのであれば、それは青年会議所構成員の自己啓発であり公益ではないのです。
かつて、公益事業は主に行政や政治により推進され、国民は選挙で投票し、納税することにより公益の増進に自らの意思を反映させてきました。日常生活では、「世間」という概念を共有し、人に迷惑をかけない、世間に恥ずかしくないよう生きる、といった行動をとってきました。しかし、現代では、近隣社会のつき合いの減少や所属集団の流動化により「世間」は共通の秩序として機能しなくなり、社会が抱える多様化した課題に行政や政治が応えきれなくなっています。
2011年の東日本大震災後、私達は悲しみの後に「絆」という新たな概念を共有しました。震災の直接の被災者ではない個人が、知り合いや特定の個人ではない「誰か」「皆」のために、自分ができることをしたいと自発的に行動を起こしたのです。従来の公益事業の「権利‐義務」関係でもなく、世間にお互いが縛られる「義務‐義務」の関係でもない、助け合うという互恵関係が日本中に広まり、今も続いています。先日、JR東日本の駅で女性が電車とホームの隙間に挟まれてしまった事故では、乗客や駅員約40人が協力し、32トンある車両を押して隙間を広げて女性を救出し、電車は僅か8分遅れで運行を再開しました。このニュースがインターネット上で紹介されると海外でも大きな反響を呼び、「だから日本って大好き!これこそが日本人よ!」、「彼らはいつも助け合って生活している。本当に素晴らしい文化だよ」という賞賛の声が次々に寄せられました。
日本人一人ひとりの心の奥には、今でも、思いやりの精神がこんこんと湧き出ているのです。「人のために何かをしたい」と思う個人の意識が社会の多様な課題の解決に結びつくよう、民による公益を育てていくことが青年会議所の使命です。
私達の活動エリアである西美濃地域は、大垣市、海津市、安八町、池田町、揖斐川町、大野町、神戸町、関ヶ原町、垂井町、養老町、輪之内町、の2市9町から構成され、行政単位は違っても共通の風土、歴史を持つ地域です。
大垣青年会議所は、西美濃地域をひとつのまちとして考え、2011年に「西美濃協調グランドデザイン」を策定しました。このグランドデザインは、大垣青年会議所の2010年代運動指針(2010~2019年度)に基づく長期的な基本方針であり、今後、各年度の重点的な活動はこの方針にしたがって計画、実施していくこととなります。グランドデザインでは、「ふれあい豊かな支え合いのまち」「子供たちの歓声がこだまするまち」「歴史・文化・産業が羽ばたくまち」というプロジェクトを掲げることで、楽しいを形に多くの出会い、交流の場を創出し、小さなコミュニティの連携から西美濃全体のコミュニティネットワークを作ることを目指しています。
昨年は、夢みるまちづくりコンテストで集まった900以上のアイディアの中からグランプリ賞を獲得したアイディアを「竹水鉄砲合戦in大垣城の陣」として実現し、小学生が楽しみながら郷土の歴史や文化に触れる機会を創出しました。今年は、2市9町の広域が一体的に取り組めるイベントとして「ツール・ド・西美濃」を提案します。大垣青年会議所は企画立案者として地元自治体や警察、ボランティアスタッフ、地元住民と緊密に連携をとって準備を進めていきます。自転車大会の開催はボランティアスタッフの支えなしには成立しません。大会に賛同した地域住民は、手弁当でボランティアスタッフに参加し、大会の運営を担うなかで、西美濃地域を訪れる参加者を「もてなす」喜びを味わうことになるでしょう。自転車大会は一つのイベントですが、行政に何かしてもらうことばかりを期待する依存型社会から脱却し、住民が主役となって新たな地域資源を創り出す、貴重な一歩となるのです。
青年会議所は、イベントの仕掛け人として、事業を滞りなく進めるだけでなく、運営に参加する住民や地域が連携し共に成長できるよう心を砕きます。住民や地域の成長に責任をもって関与すること、これこそが、青年会議所をして地域のリーダーたらしめる行動であり、次世代に伝えなければならない本質ではないでしょうか。
私の好きな童謡詩人の金子みすゞは、「私と小鳥と鈴と」という詩を書いています。
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面(じべた)を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
「みんなちがって、みんないい」と考えることは、簡単なようで難しい。私達は異質なものを尊重する思考のクセをつけたいものです。
日本人は、集団行動に秀でていると言われます。目標があれば、一致団結し助け合って達成します。しかし一方で、異質な人々が集まった場合のチームワークは不得手だとも言われています。つまり、目標が決まっている時に、決められたことをきちんとやる「グループ」は存在しても、異なる立場にある人がそれぞれの経験や能力を活かして解決策を生み出していく「チーム」はほとんどないのです。
経営学者でありマネジメントの父と呼ばれたピーター・ドラッガーは、情報化社会でこれから成果を上げていく組織モデルとして「オーケストラ型組織」を挙げています。オーケストラでは30種類もの楽器が同じ楽譜を使って、チームとして演奏しますが、偉大なソロを集めたオーケストラが必ずしも最高のオーケストラではなく、各人がすべて最高ではないけれども、優秀で自律した演奏者が協調し、最高の演奏をした時、最高のオーケストラになる。それを導くのが指揮者のマネジメントだ、とドラッカーは主張しています。
西美濃地域には、大垣市青年のつどい協議会をはじめ各種団体がより良いまちづくりを目指して活動しています。多様な団体と連携し成果を上げていくために、私達は、多様な団体と連携し、進むべき方向や目標について議論を重ね、それぞれの能力や役割を活かしていきます。
大垣青年会議所では、会員の平均在籍年数が6~7年です。在籍年数の短い会員が増えている実情を踏まえ、今年は組織を簡素化し、事業を重点的なものにしぼります。
それは、地域を牽引するリーダーシップは、経験によって磨かれると考えているからです。教えるという言葉は、もともと愛おしむという意味の「オシム」が語源です。愛情を持って寄り添いながら教えるためには、若手会員に事業運営に参加させ、各会員が力を発揮しやすい状況を準備することが必要ですが、縮小する会員のなかで事業の量を追ってしまうと、それぞれが事業をこなすだけで精一杯で、若手会員は忙しさのなかで指示に従って動きまわるだけ、という状況にもなりかねません。事業をしぼったうえで、徹底的に議論を重ねながら事業のそもそもの目的を明確にするといった本質的な部分に時間をかければ、若手会員は何をすれば良いかを自発的に考え、提案や疑問を持つようになります。執行部は、その提案や疑問に応える余裕が生まれ、一人ひとりの良さを引き出し、地域に貢献できる人財として育成することができます。
大垣青年会議所の会員数は、他の多くの青年会議所と同様、バブル時代をピークに減少しています。会員数は青年会議所に対する社会の信頼や共感を示す指標です。私達は、明るい豊かな社会づくりに向けてリーダーシップを発揮するためにも、会員拡大活動を継続し、志を同じくする者を増やしていくことが必要となります。
そのためには、まず、自分自身が青年会議所を好きでなければ始まりません。あなたは、青年会議所が好きでしょうか。嫌なところがあれば、改善できるよう提案しているでしょうか。また、胸を張って人に勧められる活動をしているでしょうか。青年会議所の良さについて、人に語ることができるでしょうか。
NHKのテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」の主題歌「Progress」に、次のような一節があります。
ずっと探していた 理想の自分って
もうちょっとカッコよかったけれど
ぼくが歩いてきた 日々と道のりを
ほんとは“ジブン”っていうらしい
世界中にあふれているため息と
君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ
“あと一歩だけ 前に 進もう”
JCは、明るい豊かな社会づくりに向けて変化を起こし、新たな社会的価値を創り出す社会変革集団です。人は誰でも忙しい毎日を送っています。遠い未来やまだ見えない価値のために時間を作ることは並大抵のことではないでしょう。それでも、日常の中で「あと一歩だけ 前に」進む。その積み重ねが道を拓くことになります。家庭人として、青年経済人として、守らなければならないものがある私達だからこそ、利己主義や独善に陥ることなく、より良い未来に向けて自らを強く奮い起こすことができると信じています。
人生から何を得るかを問い、得られるものは自らが投じたものによることを知るようになったとき、ようやく人は成熟したといえるそうです。かつて、戦後の瓦礫の中で設立された大垣青年会議所は、多くの先人が投じた弛まぬ努力によって形づくられています。その財産を引き受け、新たな時代に向けてともに道を拓きましょう。